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近世女風俗考
髪お結号の事
今の世に両輪(りやうわ)といふ髷振お、むかしは笄曲といひしなり、異本女用訓蒙図彙、〈元禄元年印本、此書貞享板本と同本、所所吹し傲、暫異本といふ、〉笄髷は、下髪せし奉公人など、其勤しまひ内々の局などに入、くつろぎまたはおのがじゝうち寄時、下髪は身持むつかしき故、くる〳〵と廻して笄にて仮にしめ置たるなり、〈○中略〉此髻振も完永の頃ほひよりありこしもの歟、左に証出する古書どもお見てしれ、知歌竹〈用附雲々といへる条に、髪にかうがいおつけたりとあり、此書奥書に万治三年とあり、〉諸国万句〈承応元年印本、三之巻十句第四、〉
前句 手ぎわにほりし家のかうがい 正之
附句 上臈はいとゞふりよき髪のわげ 信親
玉海集〈明暦二年印本、一囊軒安原貞室撰、春の部一の巻、〉
おのが枝おかうがいにさせ柳髪 行正〈○中略〉
女用訓蒙図彙、貞享四年印本巻之三所載、かうがいわげの図、〈○図略〉是より古きもの未見、笄のかたち楊枝の如し、西鶴大鑑一之巻、銀の笄お楊枝にさしかへ雲々といへるも考べし、物類称呼四之巻に揥、参河及遠州にてほせと雲々、〈春明雲〉今も此五十瀬の国〈○伊勢〉には、木にもあれ、竹にもあれ、小さく扮しおほせくらといへるもおもふべし、