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歷世女装考

孝謙天皇の御簪
難波の好古家梅園主人、天保二年に開板せられ、たる梅園奇賞に載たる、和州法隆寺の宝物、孝謙天皇の御簪とて其図あり、〈○中略〉天保十二年の春、江戸本所回向院にて、法隆寺聖徳太子の御開帳ありて、種々の御宝物もありときゝて、〈○中略〉朝早く往ておがみしに、かの梅園奇賞にある図に露もたがはず、たゞ脚岐少し狭きのみにて、物は銀にぞありける、此時いひたてする人にゆるしお乞ひ、ちかくよりて臨写したる図左の如し、孝謙天皇御簪銀製寸法如図 南都法隆寺宝物之一
摸様は平なるに毛彫したるにて、雲中に鳳凰の舞ふかたちと見えけるが、手に探て見ざれば、千百余年の古色に昏眼して視さだめがたくありし、