[p.0436]
花街漫錄

茗荷屋之簪〈○図略〉
日本堤の向ひ、浅草山谷町のうらの方なる畠地へ、むかしよりよし原町のちりあくたお捨し所あり、今はさる事もなく、元のはた地と成ぬれば、農業のおりからは、年々さま〴〵のものお掘出す事あり、ある人このかんざしお掘出したりとて、もてきぬるまゝに、うちかへしみるに、元禄の頃ほひの物とたしかに見えたり、金は真鍮に銀おやき付し物とみゆ、めうがの紋あれば、茗荷屋某の禿などのさしたるものならんかし、いとてがるく作れるもの也、又かたちの古雅なるによりて、近頃世にはやれるも、これらより出たるものなるべし、