明良洪範

二

増誉曰、前田利家の姓は菅原なり、〈○中略〉利常鼻毛の延過て見苦しけれども、是お申出す者なし、本多安房守が鏡お土産にして、近習の士に申付、鼻毛お夜詰めには抜せて見れども、知らざるよしにて居給ふ、此節近仕しける掃除坊主入湯の土産に、横山左衛門佐が指図して、鼻毛ぬき(○○○○)お捧させける、利常是お見給ひて、老臣以下お招き申されけるは、我鼻毛の延たるお、何れも笑止に思ひ、世上にて鼻毛の延たる虚気者などいふは、利常も心得て居るぞ、此頃安房守が鏡お送りたるより、近習の者共、懐へ顔お差入、鼻毛せヽくり、態ざと痛むつらつき、此の坊主が、鼻毛ぬきお持参したるも、女等がさしづせずば争でか持参せん、皆察しながら其まヽにさし置し也、其意昧申聞すべき為呼たり、我今大名の上座にして、官禄日本に知れたる利常、利口お鼻の先に顕はす時は、人気づかひし大きに疑ひ、存じ寄ざる難お請る者也、我たはけお人に知らせてこそ心易く三け国おば領し、何れも楽しましむるはと宣ひしと也、