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類柑子

北の窻
わが栖む北隣に蘆荻しげくおひて、笹阿(くま)めなる地あり、茅場町といふ、〈○中略〉れいの男等、機車みつ輪もて来りて、くいぜのかたはらにしつらひけり、文七といふ者、もとゆひこく所に成ぬる也、〈○中略〉元結こく音、ひるは日ぐらしに聞まじへて、又ことさらの心ちしたり、山姥の廻り来ぬ所にこそ、五百機たつるにはあらで、くる〳〵と巻とりたる車のたえまには、百舌の尾ふりの声、したり顔なる虻蜂などの羽音にもかよひてけしからず、〈○中略〉
文七にふまるな庭のかたつふり 角
元結のぬる間はかなし虫の声
大絃はさらすもとひに落つる雁