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落穂集

以前御当地諸売買物の事
伽羅の油之義、七八十年以前迄は、前髪立の児小姓抔之義は格別、其外上下共に、年若き男の鬢に油抔おぬり付候と有之は、なまぬるき様に致しゝとなり、其時代には、もみ上げの頬鬢と申義は時花、猶侍の中にも有之なれ共、先は歩行若党小者中間のたぐひにあまた有之候が、其輩は蠟燭のながれお油にときゆるめ、松やになどお加へて伽羅の油と名付用ひ申す如く有之也、其節も伽羅の油入用に候へば、薬種屋へ申遣し調へる如く有之たる事故、今時の如くなる伽羅の油店抔と申ては、終に見かけ不申也、