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近世女風俗考
伽羅の油と鬢付油の同物なる証は、渡世商軍談〈刻梓の年号お欠、案ずるに享保元文の頃か、八文字自笑作、〉甚九郎、京にて聞はつり置たる、蠟おさらす事おふと思ひ出し、家戸の灯挑にとりつきし蠟燭の流れお取て、こゝうみに調物(あはせもの)おして曝し見るに、白く唐蠟の如くなれり、〈さあ〉銀まふけは極りぬと、夫より江戸お廻り、蠟燭の流れ買出し、是お晒て伽羅の油に思ひつき、堺町近くに店おかり、白梅香白煉といふ伽羅の油お仕出してより、御屋敷がたお始め、町中から買に集り、わづか二年たゝぬ間に千両といふ金おため、諸方へ出店お出し、手広くするにしたがひ、日々繁昌して、伽羅甚といふ名お取り、是が鬢付でなければ買はぬやうにはやりし故、〈とあり、伽羅油と鬢付おひとつにいへるお以て、同物なるおしられれり、〉