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製油錄

白しぼり油の事
往古は木の実の油にて、鬢附おねり貝に入て売しよし、それも都会の事にて、諸国にては鬢葛といへるものおとりて水に浸し置ば、其水ねばりたるものとなる、多く是お付て、紙のこよりにて髪おゆひ、田家にては藁おもて結たるよし、伝承りぬ、其時は櫨実(はじみ)と雲ものなく、漆の実より搾たる蠟お用し也、宝暦の頃より櫨実お採、漆実同様の生蠟とする事お覚しより、種子油の白絞お日に晒し、櫨蠟の晒たるに交へ、今のごとき鬢付とする事とはなりぬ、明和安永の頃、菜種子油の早晒お泉州堺に於て仕始しより、浪華にうつり、今は世間一統早晒の油(○○○○)而已お用ふる事となりけり、又当世髪にぬる梅花油(○○○)も、此晒あぶらに匂ひおつけたるものなり、この晒し油、梅花油ともに大坂製お極上品とする事なれば、諸国にても大坂製お用ひ給へかし、