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初音草噺大鑑

千早振神の油
貧のぬすみに恋の歌とかや、其体いやしからぬ浪人、四方髪なるが、紙子に朱鞘の大小おさし、北野の天神の内陣にて、むたいに散銭お取て懐ろへ入る、社僧どもこれは狼藉なりとてとらへければ、いや〳〵さわぎたまふな、自分は、しらしぼり伽羅之進(○○○○○○○○○)といふものなりと、なお〳〵ねぢこめば、何にもせよ狼藉者なりとひしととらへ、別当へつれゆき、かやう〳〵といふ、別当聞いて、其方名は何と雲、宿もとはいづくと詮議しければ、拙子儀は、油の小路辺に罷ある白しぼり伽羅之進と申すものなりといふ、其儀ならば苦しうない、許してやれといはる、社僧ども聞て、これは合点参らぬ御下知なり、白絞伽羅之進なれば、盗おしても許し申すべきやといへば、別当いや〳〵これはどふでも、かみのあぶらじやといはれた、