[p.0544]
本草啓蒙
三/土
石鹸(○○) しやぼん(○○○○)
紅毛の語にせつぶと雲、羅田語にさぼーねと雲、此のさぼーねお転じ誤てしやぼんと雲、舶来多し、物お洗ひて油あかお落すもの也、集解の説にては、あくのおりに、うどんの粉おまじへたるもの也、然れども蛮産は別に方ありと雲ふ、俗に油お落すものお皆しやぼんと雲、無患子の皮おもしやぼんと雲、これも油お落すに用ふ、又白豆(しろあづき)お細末にして澡豆に用ふるゆえ、白豆おしやぼんまめとも雲、又さぼてんと雲草は、秘傅花鏡の仙人掌なり、此れもたヽみに油のつきたる時、此物お横に切て磨すれば、油おすひとるに依て、しやぼんと雲ふお転じて、俗にさぼてんと雲、皆本条のしやぼん(○○○○)より出たる名なりと雲ふ、
○按ずるに、石鹸と書きてしやぼんと雲ふは、猶ほ鉛筆と書きてぺんと雲ふが如し、或る説に石鹸は西班牙語Xabon仏語Savonの音訳字なりと雲へども、鹸には、魚占切、七廉切、古斬切等の数音あれど、ぼんの音なし、此説恐らくは非ならん、