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貞丈雑記
八/調度
一ゆするつきは、泔坏(かんはい)と書く、びん水入の事也、その形は茶碗の如し、木にて作り、漆にてぬり、蒔絵したるもあり、又銀にて作り、けぼりおしたるもあり、ふたも茶碗のふたの如し、台もゆするつきと対にする、形は茶碗の台の如し、但台の中ゆするつきの糸じりおうくる所のあなは、あけ通さずして、そこあり、又下台別にあり、是は香台にも用べき様の形也、上は窠形(くはなり)にて、ふち二分計も高し、足五所にあり、金物あり、五所にあげまきお結び垂る也、足の下は輪也、是も窠(くは)也、
ゆするつきの図〈ゆするつき、五字共にすみてよむべし、○図略〉
頭書
本名泔坏の台と雲也、面七寸三分と元服記にあり、
泔坏の台にあげ巻お付る事、本式いかな物お打て、それにあげまきお付るにはあらず、台の上お錦にて張りて、其端々お組緒にて台の板にとぢ付て、その緒の余りお足の方へ引出して、あげ巻に結ぶ也、織物お板にとぢ付るに、大針と小針とまぜてとぢる也、大針にながくとぢたるおになと雲、小針に短くとぢたるお蚫と雲、河貝結、あはび結の事、包結記にくわしく記す、
一ゆするつきと雲事、ゆするはゆりする也、泔坏と書てゆするつきと雲も、泔はしろみづとよむ字也、坏(つき)はすべて椀の類お雲、さかづきと雲も、酒坏と雲意也、たかつきと雲も、高坏也、扠泔は、米お水に入てぬかおゆり、米と米おすり合てとぐ故、ゆりすると雲事お略して、ゆすると雲也、米おとぎたる、一番の白水おびん水に用る也、此白水お入る坏なる故ゆするつきと雲也、白水は性の寒(ひゆ)る物也、人の血気はのぼする物也、のぼせ強ければ、眼わろくなり、或は頭痛し、又は髪の内に瘡お生ずる事ある故、頭おばひやすおよしとす、依之髪お結ふに、白水お櫛に付て、髪おけづる也、〈けづると〉〈は、髪おとかす事也、〉白水はひやす物なれば也、