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融通念仏縁起
三下
律学者之学与行相違事
故笠置の解脱上人、如法の律義興隆の志深くして、六人の器量の仁おえらびて、持斎し律学せしむといへども、時いたらざりけるにや、皆正体なき事にてありけれども、堂衆の中に器量の仁お以て常喜院と雲所にて、夏中の間律学し侍り、〈○中略〉さて彼六人の内に、名も承りしかども忘れ侍り、持斎もやぶりて、僧房に同宿児共あまたおきて、昔の儀すたれはてヽ児にくはせんとて、さお河といふ河にて魚おとらせて、我身はひたいつきの内にいて下知し、弟子の僧火たきて、まへの炉にて生(いき)たる魚おにるに、鍋の湯のあつくなるまヽに、魚すびつにおどりおつ、愛弟の児これおとりて手水桶の水にすヽぎて鍋に入る、〈○下略〉