[p.0574][p.0575]
嬉遊笑覧
二下/器用
馬ふね、酒ふね何にまれ、横長なる筥のたぐひなぞらへて舟といふは、常のことなり、色音論浅草寺の条に、御堂になれば手水鉢、ちから及ばぬ大石お、船の形に作りなすとあるお、めづらしげにいへるものあり、此船の形とあるおいかに思へるにか、天和頃、師宣がかける浅草寺境内の図に、本堂の前に大なる石の手水鉢の横長なるおかけり、帥是なり、船形といへばとて、艫舳具りて首尾異なるやうに作りしにはあらず、先つ年、大和国なる長谷寺に詣しに、楼門の前に石の筥めくものあり、其形凡長さ一丈ばかり、横五尺余、高さ二尺二三寸もあるべし、其状石槨とも雲べし、こは古き手水鉢と見ゆ、いにしへ参詣群集せし時、かばかりの物にあらずば、足るまじければ也、是に似たる手水鉢の図、清凉寺融通念仏御縁起の画中にあり、