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嬉遊笑覧
二中/服飾
世につかひたる楊枝は、折て拾べし、若おらで打遣る時は、恠ありともいひ、又楊枝がくれなど、みな女童べのいふこと也、按るに、似せ物語〈完永の草子〉男けいせいに知音して、即時もはなれず有わたるに、いたづらものになりぬべければ、終に知音はなるべしとて、この男いかにせん、吾かのさまよせ給へと、仏神にも申けれど、いやまさりてよせざりつゝなほわりなくいとすげなうあひしらひければ、御楊枝かるたなどつゝみかきつけて、もはやかはじといふせいもんとおたてゝなむあひける雲々と有、そのことわきまへがたけれど、これおもて誓に立る遊里のならひありしと見ゆ、されば楊枝に霊あるやうにいふこと、久しき俗伝と見ゆ、その原は上に引る寄帰伝の文に、やうじは人気なき処に棄るに、億(しはふき)つまはじきなど種々の法あり、然せざれば、罪ありといへる事お附会していひ出し事と知らる、世話尽〈明暦二年板〉恋部に、〈○中略〉片見楊枝とあれば、件の物語のかるた楊枝は、かたみとして贈り、重ねて逢まじき意にて、楊枝に霊あるのよしにあらじ、