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沙石集
三下
栂尾上人物語事
或遁世の長斎の上人、河内国へ請用してゆく、七里の道お冬の日、時以前におはしませと請ず、いと道もあゆまぬ馬にのりてゆくに、くもりて日影も見え子共、はるかに日たくて覚ければ、今日は日さがりぬらんといふに、檀那いまだ午時にてぞ候覧とて、種々の珍物お以て斎いとなみてすヽむ、本より食者なれば、かひ〴〵しくおこなび、食後の菓子迄至極せめくひて、楊枝つかふに、鐘のこえきこゆ、〈○下略〉