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雨窻閑話
小野木家妻女〈並〉かちんの事
一細川幽斎侯の和歌の門人に、小野木縫殿助言郷といふ人あり、丹州福智山の城主たり、〈○中略〉或日和歌の会お催す、其連中は小川土佐守、熊谷大膳亮、宇田下野守、木村宗八郎等なり、〈○中略〉程なく歌始りて、食事時分に至りしかば、年の頃四十計の女、さもけなげなるが、翠簾の外に手おつかへ、今日の御客来に饗応奉るべき品なし、如何はからひ申さんと有りしに、妻女とりあへず、短冊に歌お書きて出だされけり、折節春雨の降りければ、
月さへも漏る宿なれば春雨のふるまふ物もなかりける哉やゝ有りて黒く焼きこがしたる餅お、反故につゝみ、杉楊枝(○○○)お添へて、引かれしとぞ、