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醒睡笑

人はそだち
山中に殿あり、国中にてさもとらしき武家より嫁およぶに、おつぼねの中いのおはした、とのなどあり〳〵と供し、祝言事すめり、二日三日たてども、終に行水とも風呂とも沙汰せず、ものまかなへる形部左衛門といふおよび出し、つぼねちとお洗足(○○○)おお出しあれと申されしかば、形部かしこまり候、そのよし申させんとて、座おたち、年寄衆に皆よられよ、つぼねよりおほせられ候とふれたり、何事ぞとあつまりたる座にて、別の事になし、お洗足といふものお出せとなり、此返事いかゞせんと、だんがうさま〴〵なりしあげくに、一のおとないひけるやう、一乱にうせたと申されよ、此儀天下一の思案といつて、つぼねへお洗足お出せと候へども、一乱にうせて御座ないと、局きゝもあへず、あらけうこつやと申されけり、形部けうこつといふも聞しらねば、またむつかしきことやとおもひ、いやけうこつも御洗足と一度にうせておりないと、
山家に入婿が市に出、用おとゝのへ、日のくれてより、しうとの許に立よる、舅まづせんそく(○○○○)おまいらせよとあれば、せんそくお夕めしの事と合点し、此方にてはやせんそくいたいたと、さらばあんどうおまいらせよといふ、これもあんどうおしらねば、くひものゝ事やとおもひ、これはかかるお時宜あんどうお給はる程ならば、せんそくおこそたべうずれ、