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甲陽軍鑑
十下/品第三十二
景虎〈○上杉〉三月中旬〈○永禄三年〉に、相摸の小田原へ押込、既に蓮池まで乱入に、心もしらぬ関東侍大将衆に少も機遣なく、甲お脱、白布の手巾おもつて桂包と雲物に頭おつゝみ、朱さいはいおとりて、諸手へ乗わり、下知し人おいきたる虫程共思はざる景虎のふりお見て、関東の諸侍大小共に、舌おふるひ、此大将お頼候はゞ、ゆく〳〵大事也と、面々身の上お思ふ人多き也、