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貞丈雑記
八/調度
一御厨子棚と雲は、本は御厨子所にて食物お納め置く棚也、〈御厨子所は食物お調る所也、台所の事、〉黒棚は厨棚也、〈くりやだなお略してくろだなと雲也、くりやと雲は、竃の煙にてふすぼり黒くなる屋なるゆへくりやと雲也、くりは黒也、ろとりと通音也、くりやと雲も即御厨子所の事なり、〉右二の棚、本は右の如くなる物なれ共、物お載ておくに便利なる物故、其形お移して花麗に作て貴人の傍に置也、御厨子棚も黒棚も、古は常に座敷に置て、手なるゝ道具どもお置たる棚也、今は武家にては婚礼の時ならでは、用ざる物と思ふはあやまり也、此棚のかざり様とて定る法もなき事也、婚礼の時は、その節祝儀に附て、しげく用る物どもお、つかふ便よき様に置く也、其置物ども心つかざれば、よろしからぬ故、旧記に記置たるが法式の如く成し也、