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むさしあぶみ下
楽斎房申やう、いかに狛物うりどのきゝ給へ、それがし、十八日の火事には、親類家中無事なりしかば、めでたきことなりとて、酒さかな買求め、十九日のあしたに祝事して数献のみける酒に酔ふし、前後さらにしらざりしに、又火事よといふに、妻子ども我おいかにとかすべきとて、車長もちに押入、鎖おおろして引出し、芝口にうちすてたり、ぬす人どもあつまり、鎖おぬぢきり、長持おうちわる音のね耳に入て目おさまし、あたりおさぐりまはせば、四方は板なり、そばにはかたな一腰、小袖なども手にさはれり、〈○下略〉