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貞丈雑記
八/調度
一やない箱は柳箱と書也、柳の木お広さ五分程に三角に削り、いくらもよせてならべてすのこの如く、紙よりにて二所あみたる物也、長さもはゞも、上に居る物の大小によりて、長短不定也、足は折敷の足の如くにて、くりかたなし、それお紙よりてゆひ付る也、柳箱といへども箱にはあらず、台の様なる物也、是には何おのする物と雲定めもなく、えぼし冠経文書籍硯筆墨の類、何にても相応の物おのする也、進物なども臨時にのする事有べし、ある人の雲、近代用る柳箱は、柳箱のふた也、足は則柳箱のふたのさん也、野宮宰相殿〈定基卿〉のもとにて、古の柳箱お見たりしに、ふたも有、身もあり、三角の木お紙よりにてあみて作りたる物也、其蓋は世に用るやない箱といふ物也雲々、〈○中略〉
一延喜式に柳箱とぢ糸生糸とあり、後世は元結也、生糸とはねらぬ糸の事也、
一やないばこおやないばといふ人あり、かたこと也、笑ふべし、然れども明月記に柳葉とあり、略語なり、雅亮装束抄、源氏物語等にはやないばことあり、