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貞丈雑記
八/調度
一上ざし袋(うは/○○○○)は衣服お入る袋也、絹布などにて縫也、大〈さ〉は定法もなし、衣服の入る程にして入る也、大にたゝみたると、小くたゝみたると、数多く入ると、少く入るとによりて、袋の大小あるべく、袋の口には組糸にてつがりおする也、〈つがりとはかゞりの事〉其つがりに少ふとき組緒お通して、くゝり緒にする也、女房方故実に雲、うはざし袋の事、男のうはざしは、つがりの数三十三有べし、女房衆のは、二十二か、三十あるべく候雲々、これは大法お雲なるべし、袋の大小によるべし、男のは数半にすべし、女のは数重にすべし、扠袋の総地には上ざしおする也、上ざしとは、はりがねのふとさのより糸にて、竪横十文字に碁盤の目の如く、針目、弐分許程づゝに、うら表共にさす也、如此上ざしする事は、物お多く入るに、袋のさけぬ為也、袋は絹布にても織物にても縫也、色も不定裏お附る、これも色不定、但表の色と同色なるが宜しき也、書札雑々聞書に雲、うはざし袋へ円坐お入て御持候事、是は御小袖おもませまじと雲故実也、女房衆は無之事也雲々、袋の中に円坐お入、其上に小袖お入れば、持ありくに小袖もめぬ也、三議一統に雲、上(うは)ざしのつゝみ持事、〈うはざし袋の事〉三け条、小袖入たる包みの事也、その外扇、畳紙、上下(かみしも)、小袖、あはせは申に不及候、侍ほどの者の持は、緒の結びぎはのくゝりお右に提て持也、小法師中間は、つゝみのくびおひつさげて左に持べし、雑色力者は緒お右にて取り、左にて裏おかゝへ持べし、或は遠き所は打かづく也雲々、総じて上ざし袋は、小袖のみに限らず、何にても入る也、女房衆は小袖は勿論也、顔のけはひ道具、其外手箱に入て、うはざし袋に入て供に持する也、又袋の緒の結様、長くばもろわな、緒短くばかたわなに結べし、定りなし、又古は公方様御成の時も、上ざし袋お持せられし也、永禄十一年戊辰五月十七日、将軍義栄公、朝倉左衛門督義景が宅へ御成之記に、御うはざしの御袋被持也と見えたり、いにしへは今時はさみ箱持するやうに、他行には必供の者に上ざし袋お持せし也、又夜具お入るゝうはざし袋おばとのい袋と雲、〈とのいとは、とまり番おする事也、とまり番の夜具お入るゆへ、とのいの袋と雲也、〉