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大和本草
三/火
炭火 古我邦に桐火桶あり、今も其製あり、真鍮にてまるく小炉お作、其外に桐の木おくりたるお室として入、其ふたにも桐お用ひ穴おひらき、ふたのうらお真鍮にてはる、其小炉に炭火お入れ、寒き時客に与へて手お令温、主人も別に用て客に対して手おあぶる、中華の経助堂雑志に、倭人所製の炉の事あり、此火桶なるべし、又桐火桶の形に瓦にて大に器お作る、高八寸ばかり、わたり六寸ばかりに作り、上おまるく火気の出る穴お処々にあく、口お小にして其ふたお四五寸、横四寸ばかり、厚四五分にやき取手お付、小穴お三あけ、瓦火桶(○○○)と雲、其内に宵よりか子て火お入おき、身おあたヽめんとする時、灰の内に炭火お二三入、衾の内に入、上とめぐりお小ぶとんお以おほひ、終夜身足おあたヽむ、明日に至て火久しく消ず、炭火お多くついやさず、火にて衣おやかず其益多し、又腹痛食滞などある時、右のふたおおほひおけば熱くなるお、布袋或もみたるしぶかみ袋に包みて、腹背腰おあたヽむ、ふたお二作りおきて、冷たる時取かへてやき用ゆ、腹痛食滞洩瀉感寒等に、是お以腰腹おあたヽむべし、腰おあたヽむるは腹お温むるより最よし、如此腰腹お温むれば、煖気内にとおり、気めぐりて病いゆ、温石お用るよりは容易に早くやけて、かはるがはるとりかえ、かろくして自由なれば便用、世人未知此法之容易有効、故著之爾、