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宝蔵

火桶
こゝにひとつの掘出しもの有、其名お火桶といへり、其価おばゞのへそくり銭お以て求るにもやすく、焇炭いさゝかふきたてゝ、ひるはいだきて亀(かゞまり)し手おのばし、よるはそひぶして凍る膚おあたゝめて、天下の老おやしなふにたれり、なお俊成卿は常になえたる装束おきて、桐火桶お手まさぐりて、和歌おながめ給へりしと、伝へきくこそなつかしけれ、其形おうつしとめて、今も人人のもてはやせるは、よのつねのよりはいとちいさく侍るぞ、猶愛らしき姿なりけらし、
火桶には月花もなし老の友
火桶火丹学問青 詠吟可恥不亡霊 五条三位六条叟〈自称〉 歌道主人連誹丁