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窻の須佐美

青山大膳亮幸利、広間のかたへおしつらひ、火炉お設しめられ置れけり、立入る幕下の士、或時物がたりの序に、御家には作法厳正なると承りしに、広間のかたへに火炉ありと承り、定て深き御心にてあらめ、外の家にても、茶たば粉などは、きはまりたる事に候へども、火炉おかまふと雲事聞も及ばざるゆへ珍敷覚候、おしへ承度といひしに答て、されば人はかげとひなたとなければ、過しがたき者なり、事なき時もおさへからむれば、一大事の時に曲事かゝるものにてあり、そのうへ番所々々に人お置は、不時の変ある時の警固にて有なり、されば支体すこやかに心屈せざる事大切なり、寒気の時にしひてこらへ居る時は、手足こゞへて、事あるとても、持たる刀おも取落すやうになるなり、こゝお以てかまへしなり、〈○下略〉