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古事記伝
三十三
帷幕は、阿宜波理(あげはり)と訓べし、和名抄に、四声字苑雲、幄大帳也、和名阿計波利、書紀斉明巻に、張紺幕於此宮地とあり、〈継体巻に幄幕おきぬまくと訓、和名抄にも幕和名万玖とあれども、此は字音とこそ聞ゆれ、又帷和名加太比良とあれど、此は帷と幕と二には非ず、二字お連ねて一物に訓べきなり、つねに帷幕とつゞさわる字なる故に、かくは書るのみなり、帷も字書に幕也と雲注あり、〉又斗婆理(とばり)とも、訓べし、和名抄に、唐韻雲、幌帷幔也、和名止波利とあり、〈そも〳〵和名抄には、帷は加太比良、幕は万玖、帟は比良波利、幄は阿計波利、幔は万多良万久、幌は止波利、帳は俗音長などくさ〴〵挙たれども、そはやゝ後のことにて、古はさしもあらじ、字も漢国にても通用ること常なれば、此の訓も右の字どもには泥まず、たゞ古き名に依て訓〉〈べきなり、阿宜波理は幄字お用ひて、屋の如く上に張る名とは聞ゆれど、又横おも通はしても雲べし、横より上へかけて張故にもあるべし、かくて此は上なる絁垣ぞ、今世の幕のさまなる物なれば、帷幕は即後世の幄にてもあるべし(○○○○○○○○○○○○○○○)、〉