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今昔物語
二十八
越前守為盛付六衛府官人語第五
今昔、藤原の為盛の朝臣と雲ふ人有けり、越前の守にて有ける時に、諸衛の大粮米お不成ざりければ、六衛府の官人下部に至るまで、皆発て、平張の具共お持て、為盛の朝臣が家に行て、門の前に平張お打て、其の下に胡床お立て、有る限り居並で、家の人おも出し不入ずして責め居たりけり、〈○中略〉早う此の為盛の朝臣が謀ける様は、此く熱き日、平張の下に三時四時炮せて後に呼入れて、喉乾たる時に李塩辛き魚共お肴にて、空腹に吉くつヾしり入させて、酸き酒の濁たるに、牽牛子お濃く摺入れて呑せては、其の奴原は不痢では有なむやと思て謀たりける也けり、