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安斎随筆
前編四
一百子帳 貞丈雲、我朝の百子帳も、本は唐の百子帳おまなびて作れるなるべし、唐の百子帳の製、事文類聚続集巻十一に見へたり、其文義お考るに、柳の木お撓め曲げて、帳の骨お作る、これお用る時には、骨お張り開きこれお用ひざる時は、骨お弛めたゝみて置くやうにしたる物にて、今世の保呂蚊屋の骨の如き、其骨お張ひらきて、上に青氈の帳お冒ひかける也、青氈は青き羅紗なり、〈毛おりなり〉総体円くして、頭高く、上尖りたるものと見ゆ、又文選、何平時が景福殿に、百子後宮と雲語あり、注に百子又殿名とあり、百子殿といふ宮殿の名、是後宮にて妃妾の居処なるゆへ、百の子孫お産べき事お祝して百子殿と号する也、百子帳とは別の事なり、百子帳と号する意は、帳の骨の子数の多くあるゆへ、百子といひたる也、子とは骨おさして雲也、此事かの事文類聚にあり、帳お作るに支度の多きゆへと雲は非也、