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宗祇廻国記

金沢にて、〈○中略〉此在所に称名寺といへる律院侍り、〈○中略〉三重の塔婆にまうでけるに、老僧に行あひぬ、此塔の由来などたづねければ、これにこそ揚貴妃の玉の簾二かけ安置し侍れ、〈○中略〉一見おゆるし侍るべき由申す、まことにふしぎなる機縁なり、簾のながさ三尺四寸、ひろさは四尺計にて、水精のほそさ、よのつねのみすよりもなほほそく、かたちは見え侍らず、玉妃のそのいにしへに、九花帳に預侍りけんことなどおもひやり侍れば、千古の感緒今更肝に銘じて、皆人袖おぬらし侍りき、
とおき世のかたみおのこす玉すだれおもひもかけぬそでのつゆかな