[p.0859][p.0860]
十訓抄

同院〈○一条院〉雪いと面白く降たりける朝、端近く出居させ給て、雪御らんじけるに、香炉峯のありさまいかならんと被仰ければ、清少納言御前に候けるが、申事はなくてみすおおしあげたりける、世の末まで優なる例に雲伝られける、彼香炉峯の事は、白楽天老の後、此山のふもとに一の草堂おしめて住ける時の詩に雲、
遺愛寺鐘欹枕聴 香炉峯雪撥簾看
とあるお帝仰出されけるによりて、御簾おばあげけるなり、彼清少納言は、天暦の御時、梨壺の五人の歌仙、清原元輔女にて、其家の風吹伝へたりける上、心さま優にて、折につけたる振舞いみじき事多かりけり、