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消閑雑記
すべて人の心は、ものに著せず、とゞこほりなきやうにもてなすべきことなり、これ無事の上の有事なり、よく工夫すべきことなり、
我恋は障子のひつて(○○○○○○)嶺の松火打袋に鶯のこえ、此うたの心は恋慕の一念あれども、目前の障子の鐶鉤とうちみて、やがて嶺の松ときゝ過ぎ、火打袋のこち〳〵お、いかにや〳〵とおもふうちに、そのまゝ鶯のこえなりけりとうつりし念頭、一点もとゞこほらず、当下一念の今日底なり、