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有徳院殿御実紀附錄
十六
ある日御閑燕の御なぐさみに、御みづから十曲の聯屏(○○○○○)に、水墨の山水おなされける、其さまいかにも磊落として、神逸の風韻おきはめられしかば、御みづからも御得意におはしましけるにや、成島信遍おめして、席上にてこれに詩お題せよと仰らる、信遍その時左右に侍座せし小姓の人々に墨お磨しめ、筆濡させ、其身は御庭におりて、仮山のあたりこゝかしこ徘徊し、やがて帰り来り、草稿もなさず、御画の上に、おもふまゝに長篇の詩おすら〳〵と題しければ、御けしきことにうるはしく、あまたたび御賞歎ましましける、