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古今著聞集
十一/画図
一条前摂政殿、左大臣におはしましける時、居すへたてまつらんとて、一条室町の御所お、光明峯寺入道前備中守行範に仰て修理せられにけり、完仁三年十月廿七日御わたまし有けり、つくりどもゝ少々あらためられけり、寝殿二棟の障子より、つねの唐絵は無念也とて、本等院宝蔵の四季の御屏風お、二条前関白殿長者にておはしましけるに申されて、取出してうつされにけり、人々の姿もみな昔絵にてぞ侍るなる、いと見所あり、武徳殿の競馬の所に、みもしらぬ人のすがたどもおほかり、嵯峨野の御幸に、御輿の上に虎の皮おおほひたるなど、ふるき事どもおかゝれたる、いと興有り、承保の野行幸には、虎のおばおほはれざりけるとなん、近衛大殿の御相伝の屏風どもは、皆宝物にて侍うへ、そんじたればとて、四季の大和絵お、一月お一帖に書て、あたらしく調ぜられたるとなん、可然事の時、客の座に立らるゝ也、元日の節会は、豊楽院の儀おぞ書て侍なる、延喜の御時の月の宴、御溝水のながれやうなど、ふるきにたがへずかゝれたる、いと興ある事になん侍なる、