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古事記伝
二十八
多々美許母(たヽみごも)は、畳菰(たヽみごも)にて、次の幣に係れる枕詞なり、然連くる由は、畳(たヽ)みたる菰重(こもへ)と雲るなり、〈重(へ)は、二重三重八重などの重なり、〉畳むとは重(かさ)ぬることにて、菰(こも)お畳(かさ)ねて幾重(いくへ)もある意に重(へ)と雲り、又畳(たヽみ)おば既に畳(たヽみ)と雲物にしたる名として、畳(たヽみ)の菰(こも)とも見べし、〈菰などお畳(たヽ)み重ねて造れる物お、畳と雲なり、〉其も幣(へ)とつゞく意は、上に同じ、〈冠辞考に、畳(たヽみ)にせむ料の菰お編(あむ)お隔(へだつ)と雲とあるは、いさゝか違へり、幣陀都(へだつ)と雲は、重(へ)お立つと雲ことなれば、本は重と同じけれども、其(それ)に二つの意あり、一つには重(へ)おなして畳(かさ)ぬる意、二つには物と物との間な塞絶(せきた)つ意にて、隔の字は此の意に当(あて)たる字なり、然れども此れも本は重(へ)お立つるより出たる意なり、されば菰お編隔(あみへだ)つとあるも、重(へ)おなす意に取れば違はざれども、其意には非ずて、隔の字の意に雲れたりと聞ゆるおや、〉