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今物語
或殿上人さるべき所へ参りたりけるに、おりしも雪降て月おぼろなりけるに、中門のいたにさぶらひて、寝殿なる女房にあひしらひけるが、此おぼろ月はいかゞし候べきといひたりければ、女房返事はなくて、とりあへずうちより、たゝみおおしいだしたりける、心ばやさいみじかりけり、
〈新古〉照もせず曇もはてぬ春のよの朧月夜にしくものぞなき
○按ずるに、新古今和歌集には、文集嘉陵春夜詩、不明不暗朧々月といへることおよみ侍ける、大江千里とありて、此歌お載せたり、