[p.0188][p.0189]
ねざめのすさび
とのいものゝ袋
河海抄に、殿上番直人の名字書たる簡号、日給簡お納る袋歟としるし給ひしは、大なる誤なるよしは、既に先達もいへり、さてこの袋は、俗にいふ番袋なりと契冲のいへり、されどたしかなる証文おひかず、今考るに、うつぼ物がたり蔵開巻に雲、かくて一二日ありて、大将殿うちのおほせられし書どももたせて参給て、そのよし奏せさせ給ふ雲々、〈○中略〉夕暮に殿上に出給て、宮に御ふみ奉れ給、まかで侍りなんとすれど、御書きこしめしさして、夜つかうまつれと仰らるればなん、夜さむおいかにとなん、南の御方おはしま、させ給て、もろともにいぬめして、御前にさぶらはせ給へ、まかで侍るまでは御帳のうち出させ給な、おいらかにといふ事侍るなり、まことやとのいもの給はせよ、わいても衣だにとかたらひにてなめし、中務の君よみさこえ給へとて奉り給へば、あかいろのおりものゝたゞのあやのもにわた入て、しろきあやのうちきかさねて、六尺ばかりのふるきのかはぎぬ、あやのうらつけてわたいれたる、御つゝみにつゝませ給おきくちばかり、御衣筥一ようひに、いとあからかなるあやかいねりのうちき一かさね、おなじあやのうちきかさねて、みえがさねのよるの御袴、おりものゝなほしさしぬき、かいねりがさねの下がさねおいれてつゝみたり、いうか、うちめ、よになくめでたし、はなちの筥、ゆするつきのぐなど奉れ給、御返事は中務の君かくなど聞えさせつれば、御とのいもの奉らせ給、よさむはなにともまたおぼししらずとなん、いぬ宮はさおぼし聞えさせよとなんとて奉れ給へば、大将見給てあぢきなのせんじがきやとひとりごちて、とのいさうぞくしかへてめしあれば参給ひぬ、とあり、此文にてよくしらるゝにこそ、