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冠辞老
四/志
しきたへの 〈まくら 衣の袖 たもととこ いへ〉
万葉巻二に、〈人麻呂〉敷妙乃(しきたへの)、衣袖者(ころものそでは)、通而添奴(とほりてぬれぬ)、〈上に夜床ことあり、〉また〈同人〉靡吾宿(なびきわがねし)之、敷妙之妹之手本乎(いもがたもとお)、〈こは語お隔て袂につゞく〉巻十一に、敷栲、衣手離而(たへのころもでかれて)、玉藻成(たまもなす)、靡可宿濫(なびきかぬらん)、和乎待難(わおまちがてに)、また敷細之(たへの)、衣手可礼天(ころもでかれて)、巻十七に、之伎多倍能(しきたへの)、蘇泥可幣之都追(そでかへしつヽ)、宿夜於知受(ぬるよおちず)雲々、こは夜の衣袖に冠らせたり、〈○中略〉さて敷細布とて、専ら寝衣の類に冠らしむる事は、古事記に、牟斯夫須麻(むしぶすま)、爾古夜賀斯多爾(にこやがしたに)、多久夫須麻(たくぶすま)、佐夜具賀斯多爾(さやぐがしたに)、阿和田伎能(あわゆきの)、和加夜流牟泥乎(わかやるむねお)雲々、万葉にも蒸被(むしぶすま)〈古事記によるに、是おあつぶすまと訓しはわろし、〉なごやが下にねたれどもといへり、然れば夜の物は、なごやかに身にしたしきお用る故に、和らかなる服てふ意にて、敷栲の夜の衣といふより、袖枕床ともつゞくる也、既に朱良引(あからひく)敷たへの子の下に引る如く、神祇令の集解に、敷和者宇都波多(うつはた)也とへいる敷は、絹布の織めのしげき意、和はなごやかなるいひなれば、美織(うつはた)也といへるおもおもへ、〈敷とは下に敷ことゝのみおもふはかたくなし、〉