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閑窻鎖談

九月蚊帳
俗事に九月蚊帳へは雁金お画き付るものなりとて、紙に書て蚊帳の隅に結び置事あり、何の故なるか知れず、物理小識に曰、夏月線染て蝙蝠おこしらへ蚊帳に付るは、清朝人が長崎に来りてなせしより始り、それお誤り伝へて雁金お付る様になりしと語る人ありしが、然もありなんか、蝙蝠は蚊お好みて餌食とせり、又蝙蝠の糞お夜明叉といひて、眼病内瘴(そこひ)の薬に用ゆ、夜明又は則蚊の眼玉なり、這等の事お思へば、蚊帳に雁がねお付は誤にて、蝠蝠こそ蚊の為には禁物にて、蚊お除るの呪法にも成ぬべし、