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嬉遊笑覧
十一/商賈
古老雲、宝永の末、大坂に天満喜美太夫といへる者、説経浄るりの名人にてありしが、幾玉の茶屋にて口論し、これに付て江戸に下り、名おつゝみて居れり、一とせ呉服屋蚊屋お売荷持にやとはれて、萌黄の蚊屋と呼に節お付て、美声お高くはり上たれば、聞人これおめでゝ、此年蚊屋太に售たり、これ蚊屋うり呼声の始なりといへり、されど前に晒うり有り、
川柳点前句付、らかんじは萌黄のかやのやうに呼、げに羅漢寺勧化のよび声も、今のごときは蚊屋売以後の事なるもしるべからず、〈○下略〉