[p.0212][p.0213]
守貞漫稿
六/生業
蚊帳売 近江の富賈の江戸日本橋通一丁目等、其他諸坊に出店お構ふ者あり、専ら近江産の畳表蚊帳の類お売る店也、此店より手代お売人に市街お巡らしむ、厨は雇夫お以て担之也、其扮図〈○図略〉の如く、二人の菅笠雇夫の半天、及蚊帳お納る紙張の籠ともに、必ず新製お用ふ、又此雇には、専ら美声の者お択ぶ、雇夫数日習之て後に為之、売詞、萌黄のかやあ、僅の短語お一唱するの間に、大略半町お緩歩す、声長く呼ぶこと如此也、
小蚊屋売 前に雲蚊屋売は大賈より出之、大約路上呼巡る、賈人皆小民のみ、唯かやうりのみ大中賈おり出之、亦此小蚊やうりは、小民の業とす、売詞に枕がや母衣蚊や、二厨とも小児お臥しむの具、竹骨お覆ふ物也、