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十訓抄

成範卿事ありてめしかへされて、内裏に参られたりけるに、むかしは女房の入立なりし人の、今はさもあらざりければ、女房の中より昔お思出て、
雲の上はありし昔にかはらねど見し玉だれの内やゆかしき、とよみ出したりけるお、返事せんとて、灯炉のきはによりけるほどに、小松のおとゞの参給ひければ、急たちのくとて、とうろの火のかきあげの木のはしにて、やもじおけちて、そばにぞ文字おかきて、みすの内へさし入て出られにけり、