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宝蔵

灯台
かたちの眼ある事は、天に日月有がごとしとかや、世の中のあさはかなるわざより、おくぶかきまことの道にいたるまで、見る事これがのりたり、かくてぞ先聖の亜聖にしめし給へるにも、礼にあらずんば見る事なかれといへるお第一とし給へり、かゝる眼もうばたまの夜に入ては、あかりおうしなへり、此時に此灯によらでは、たれか物のあやめも見分たん、世こぞりて目の薬おたうとめども、此灯の毎夜の目の薬たる事おしらず、古人燭おとりて夜遊ぶ、良に故ある哉、茶の会なども灯のほかげにこそ、いたりふかき事はありとこそいへれ、況や文おひろげてみぬ世の人お友とする、こよなきなぐさみおや、猶木ずえにとうろなどかゝげたるもいとおかし、
燭おとりてあそべ火ともす花の陰
常々負(たのむ)孔氏之孫 以一余雖竭気根 明徳未嘗成我物 灯台本暗学窻怨