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擁書漫筆

石灯炉の名物は、橘寺の仏像と十二支おえりたるが、年号おしるさゞれども、天下第一の古物といふべし、次に春日の祓殿社なるは、火ぶところに鹿の形あり、春日社に火見形(ひのみがた)といふがあり、西屋、柚木、東大寺の八幡宮、三月堂、般若寺の文珠堂、秋篠寺、春日の奥院、当麻の穴虫石などいとおほかり、元興寺に延元元年の灯籠あり、太秦(うづまさ)に頼政の寄附といひ伝しがあり、大徳寺の高桐院に幽斎法印のめでたまひしがあり、ちかき比には泉涌寺の雪見形などきこゆ、江戸浅草竹町の渡の近所に、六地蔵の石灯炉とて、鎌田政清がたてけりといふがあり、相摸国筑井県下河尻村なる宝泉寺の観音堂には、建久二年の年号おしるせしがあり、これらは余〈○小山田与清〉が耳にききたもちたるお、後わすれじのためにかいつく、