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貞丈雑記
八/調度
一脂燭の事、是は座敷の上にてとぼすたいまつ也、これおしやうめいとも雲也、松明と書也、婚礼にこしよせの時、女房衆しそくおさして迎に出るも、此脂燭お用る也、禁裏にて天子夜の出御に、主殿寮といふつかさの役人両人、脂燭お持て御先に立つ也、御左に立つ人は、左にしそくお持て、左の方へしそくおなし、御右に立つ人は、右にしそくお持て、右の方へなして立也、扠脂燭は松の木にて作り、長〈さ〉壱尺五寸程に切りて、ふとさは径り三分計に丸く削て、先の方お炭火にてあぶりて黒く焦す也、焼て炭にするは惡、其上に油お引てあぶりかわかすべし、扠紙屋紙お広〈さ〉五分計に裁て、脂燭の本お左巻にまく也、脂の字あぶらとよむ字なり、松の木はあぶら有て、能火とぼる也、古書には皆脂燭の字お用たり、又本お紙にて巻たるたいまつ故、紙燭とも書也、脂の字お用事本也、元文天子桜町院の大嘗会お行ひ給ひし時、用られし脂燭お、或人武者小路殿へ所望して、申受たりしお見しに、是は赤杉の木お用られたり、総体の拵様右の如し、しそくの図如左、長さ壱尺五寸ほど丸し
径三分程也
先お平に切る本の方より少ほそき心也
先お二寸程あぶりてこがす、油花ぬりて又あぶりかはかす、松のひでお用る時は此儀に不及、
紙屋紙竪一たけにてまけば、巻数十計巻るゝなり、
此間三寸程
小口径三分計平に切