[p.0264]
八水随筆
小なる蠟燭お、世にかふかんじ(○○○○○)といふ、延宝のころ、京橋一丁目に越前屋九右衛門とて、紙蠟燭お商し店あり、浅草仰願寺の院主、心やすく常に参られしが、ある時咄に、仏前つとめの節とぼし候蠟燭、大きくて不自由なり、小さくは出来間敷やと申されし故、それこそやすき事なりとて、小さき蠟燭お製しつゝ送られければ、院主殊の外よろこび、常にたのまれけるまゝ、此蠟燭お拵置しに、所々よりきゝおよびて取にきたり、かうぐはんじの挑故、その名おいつとなく、かうぐはんじとよび伝へ、今世上にひろまり、外々にても此蠟燭お製し、願おあやまり、かんと覚え、ついにかうかんじと披露す、此越前屋九右衛門、則浅井九右衛門先祖にて、土方七郎右衛門にも祖なりと、土方氏の物語なり、