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宝蔵

続松
君子は安而不忘危、存而不忘亡、治而不忘乱、是以身安而国家可保也とも侍れば、静なる御代ながら、辻切酒狂人町送の溢(あふれ)者のそなへに、竹おわり松おつゝみて結ひおかせしも、ほこりにまぶれ烟にふすぼりて、夢にだも用ゆる事なきぞ、九重にすめる甲斐ありていとうれし、又いやなるは新物故身(あらたにものふれるみ)お龕前堂にかき居て、威儀たゞしき僧の何おのたまふやらんしらず、声に甲乙おなして、目おほそめつ、又は見開きつ、丸くふりあげ道場になげうちて、たうとき方へ導るに、つき出せる鉢の音こそ余所ながら聞も、哀なるよりはまづ、うそ気味わうけれ、きらふもあやなたとひ五百八十年七まがりの命おたもつとも、其八まがりめは寂滅の貝より外にふくものもあるまじきお、猶在五中将の尾張へ出立給ふに、斎宮の御方よりのさかづきに、渡れどぬれぬえにしあればと、上の句おかきて出し紿へるに、中将たいまつのすみして、又めふさかの関はこえなんと下の句おかきつぎ給ふぞおもしろきより羨けれ、うらやむもうすじほなり、人がらといひ情といひ、及ばぬといふもおろかなれば、まつのおもはん事もはづかし、
月あかき尾花や風の手たいまつ
続松縛置歷何年 盗窃無興封境全 医術純(もつはら)論治未病 用心正在不然前