諸色調類集

水油魚蠟部三

〈大伝馬町壱丁目三郎助店支配人文七〉蚕売さなぎ油(○○○○)製法願之儀取調申上候書付 館市右衛門
〈大伝馬町壱丁目弥重郎店〉〈三郎助勢州住宅に付店支配人〉文七
右之者相願候者、年来蚕売さなぎより灯油絞候儀心掛け罷在、此度甲州道中於日野宿相試候処、清浄之灯油に相成候に付、弥製法方取掛り申度、自然御国益にも可相成哉、灯火保ち方等、種油同様に有之、何卒御聞済被成下、願之通被仰付候上は、御府内に而絞所補理、市中在々共売八仕度旨、別紙仕法書差上、家主五人組差添奉願上候、
右願訴状仕法帳共御渡被成、取調可申上旨被仰渡候間、猶呼出相糺候趣左に申上候、
〈右願人〉文七
一訴状絞方奉願候油種蚕売さなぎ之儀は、武州相州上州辺蚕場所に而、例年三月中旬より蚕作り始、四月一抔まゆに相成、多分五月より七月迄糸取上げ候跡に、まゆ之中之虫計鍋に残り、是おさなぎと唱候、右さなぎ腐れ早く、皆無捨り同様之品に付、其在々〈江〉申談、腐ざる様煎り干にも致し、買集製法可仕儀に御座候、
但寒気に向候得ば、さなぎ油気も薄趣、此様しは未仕兼候得共、五月より九月頃迄之儀は、聢と相試申上候、
一右さなぎ油明り保ち方等菜種油同様に而、魚油とは相違仕、ねばり気薄く、油煙相立不申、別に惡敷香も無之、猶手入能さなぎ干立候得ば、決而匂ひ等不仕、油すみ方も宜敷罷成候、
一絞道具之儀、種油同様に有之猶菜称油者、種お煎上げ臼に而搗、蒸籠に掛け候、さなぎ者臼に而搗、夫より釜に而煎上ぐ、蒸籠に掛け候、右前後手順之違ひ而已、種油よりさなぎ之儀は搗くだき早く、仕事捗取候見込に御座候、
一御聞済相成候上者、絞所之儀、南本所扇橋代地町私名前之地所有之、同所〈江〉取建、但絞小屋五間に拾間之平家補理、置所者河岸地〈江〉相建申度候、
右絞方一堂〈江〉一日三人掛り、さなぎ種四石余に当て、灯油四斗余出方に相成、勿論煎加減蒸加減に而、出方並性合共余程次第之有之候儀に御座候、〈○中略〉
右之通申立候、一と通者相聞、仕法帳申上候売直段お以、当時水油直段に見合候得者、壱升に付、凡壱匁余も下直に相当り候、〈○中略〉願人文七儀、製油入御覧候趣に候得共、右者日野宿に而相試、願人之外御当地に而絞方見届候儀無之に付、先づ絞立成不成者差置、第一油種さなぎ買集、其外絞職手間代等、前広諸入用可相掛処、前書之如く困窮身分、且絞所申立候南本所扇橋代地町所持地面之儀、当時浅草西仲町堺屋安右衛門方〈江〉家質書入、金千五百両借用有之候趣、若願済等之権威お以、取扱候節は穏不成、彼是以元手差支之程難計、容易に難被仰付筋と奉存候、則御渡被成候訴状仕法帳返上仕、此段申上候、以上、
辰〈○天保十五年〉十二月 館市右衛門