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雲根志
前編一
石脳油
美濃国谷汲山お豊然上人、延暦年中草創の時、其地おならするに、一つの奇石お堀出せり、石中より油お涌出す、豊然ちかひて雲、我此地におひて、大悲の像お安置せん、もしひろく利益あらんには、願はくは此わき出る油、ます〳〵多からんものと雲おはるといなや、油のわき出る事泉のごとし、豊然大によろこんで、十一面観世音お安置せられける、今其油やう〳〵少しといへども、仏前の常灯お照らす程の油は涌出ぬ、又博物士心にいはゆる石漆の類なるべし、又越後国臭津に此事あり、是は地中に池ありて、此池へ涌出る事おびたゞし、よつて一村是お用ゆ、又大に売買す、甚だあしき臭気ありて色黒し、日本紀に、天智天皇七年越後国より燃る水お貢ぐと是なり、又讃岐国香川郡安原村にもあり、