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笠は、かさと雲ふ、頭上に戴き、雨雪お御ぎ、日光お遮る具にして、其類甚だ多し、竹笠、藺笠、菅笠の如く、原質お以て名づくるあり、編笠、網代笠、塗笠の如く、製作お以て名づくるあり、平笠、尖笠の如きは、形状お以て名け、日旱(ひでり)笠、陣笠、路地笠の如きは、其用お以て名け、市女笠、菰僧笠、六部笠の如きは、用いる人お以て名け、尾張笠、信楽笠、加賀笠の如きは、産地お以て名けたるなり、〓垂(むしたれ)は、笠の周園に布お垂れて、面お掩ふに供す、婦人の用なり、
蓋は、きぬがさと雲ふ、其形方にして、綾羅の類お以て之お張り、四隅に流蘇お垂れたるものにて、専ら之お儀飾に用いる、
簦は、おほがさと雲ふ、竹菅等にて作れる大笠に、長き柄お附したるものなり、
傘は、かさ、又はからかさと雲ふ、柄あるものにして、自ら翳ずるものと、人おして翳ぜしむるものとあり、武家には長柄傘、爪折傘の類ありて之お袋に蔵め、行路儀飾の用と為せり、足利幕府の時には、特に傘袋お賜ひて、其勲に酬いしことあり、常用の傘にも多種ありて、並に雨お防ぐに用いたれども、或は日傘と称し、専ら日光お遮るに用いるものあり、
蓑は、神代よりありて、其名称は今に至るまで改まりしことなし、後には多く農夫、漁人の著するものとなりしが、加賀国より出づるものは、上に青糸お張り、至て美麗なるものにて、士人の輩の著る所なり、
雨衣は、あまぎぬ、或はあめぎぬ、又はあまごろもと雲ふ、蓋し油お布帛に施し、之お衣服の上に襲ひ、以て雨お防ぐものなり、
合羽は、かつぱと雲ふ、即ち雨衣なり、葡萄牙語に外套おかつぱと雲ふより出でヽ、其形の相似たるに由り名づくる所なりと雲ふ、始め紙にて製し、油お施したりしが、完文の比より極めて富豪なる者、希に木綿お以て製し、元禄の比には之お著用する者稍、多くなり、終には羅紗、羅背板、琥珀の類お用い、其装束と称する装飾も、次第に華美と為れり、而して其短きお半合羽と雲ひて、大名の従士、及び商人之お用いたり、婦人は始め浴衣お以て雨衣と為しヽしが、宝暦の比よりは、皆木綿の袷合羽お著する事になり、油紙の合羽は中間の輩之お用いたり、
行縢は、字又行騰に作る、むかばきと雲ふ、獣類の毛皮お以て作り、脚部お裹むものにして、遠行に便にす、又犬追物、笠懸等の時、騎者の用いるものなり、
脛巾は、はヾきと雲ふ、脛に纏ふものにして、旅行等に用いるものなり、脚半も亦此類なり、橇ばかじき、又ばかんじきと雲ふ、足に穿きて、雪中お行くに用いる、
杖は、つえと雲ふ、竹木等お以て作り、歩行に便ずるものにして、其形歌に由はて、鳩杖、橦木杖等の名あり、而して徳川幕府の時に在おては、吏員の杖お用いるに一定の制ありき、
朸は、あふこと雲ふ、物お担ふに用いる具なり、
挟箱は、はさみばこと雲ふ、始め他行する時は、挟竹(はさみたけ)と称して、板二片お以て衣服お覆ひ、竹お以て挟みて、僮僕おして担がしめたりしが、甚だ不便なるお以て、箱お造り、其蓋上に棒お施して、之お担ぐに便ならしむ、而して挟竹より創意せしお以て挟箱と称せり、挟箱には紋お描き、緒お施し、又覆お為したるあり、徳川幕府の時、諸侯の家格に依りて、金紋お描くお免し、先箱(さきはこ)お持つお許す等の事あり、先箱とは武士往来の時、肩輿より前に挟箱お担がしむるお雲ふ、而して挟箱は武家のみならず、搢紳、婦女、平人等も用いたり、