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守貞漫稿
二十九/笠
菅笠、昔は上総国より製し出す、元禄以来加賀国より産す、加賀笠(○○○)と雲、総製は粗、賀製は精美也、〈○中略〉
古き伊勢道中の唄に、大坂はなれてはや玉造り、笠お買ふなら深江が名所雲々、河州深江村にて専ら菅笠お製す、今も然り、蓋加賀製の多きには及ばず、今世も加賀産美製にして而も多く産す、菅性日本第一とする也、〈○中略〉
菅笠、蝙蝠形、杉形、雷盆(すりばち)形、〈○以上図略〉
今世三都とも、士民旅行には菅笠お用ふ、形種々あり、或は人品に応て用之、或は随意用之、〈○中略〉花笠〈○中略〉 江月仙王神田の祭祀には、警固の衆人、各一文字菅に摸造花包お付てかむる也、他人と混ぜざる標とす、故に家主町役人と雖ども、袴に一刀お帯て冠之、てこと雲鳶の者は、笠形菅の末余り散りたる物、〈○中略〉
大坂の市中お巡り、銭お受る住吉踊りは願人坊主と雲僧形の物貰ひ也、其所用笠、図〈○図略〉の如く菅笠の周りに茜木綿お垂て、前お少く除けり、是前に雲る虫の垂絹の遺意に似たり、
菅笠〈○図略〉 三都とも旅行の婦女、及び田舎の婦女、田植其他農事お営等、皆此菅笠お用ふ、笠当、美なるは、黒天鵝絨等、粗なるは浅黄木綿也、ともに方三四寸の綿入角蒲団也、紐は白木綿お専とし、浅木綿もあり、ともにくけひも也、一条お用ひ前お輪になして腮にかけ、両端の方お背より口の下に結ぶ、両端背にて左右お打違へ、〓如此にし、耳の後ろより前に口下に結ぶ也、
今世も江戸の女大夫と名付る、三線お弾き唄ひて市店お巡り、銭お乞ふ非人の妻女ども之、〈○中略〉彼徒のみ市中にも、四時右の菅笠お用ふ、紐同製、必浅黄木綿〓紐也、蓋正月元日より大概半月の間は、鳥追と号し、三線唱歌お異にす、其時は菅笠お用ひず、前図の編菅お用ひ、正月半過より再び菅笠に復す、